皆さまこんにちは。前回は、問題解決者の皆さまを支えるソフトスキルの1つである“チェンジマネジメント(チェンマネ)”の概要を書きました。チェンマネの代表的な3つのアプローチ(コッターの変革8段階プロセス/チェンジ・アクセラレーション・プロセス/ADKAR)を比較し、共通部分が多いことを確認しました。
今回は、これまで書いてきた“一般的な問題解決(as-is ~ to-be)およびリーンシックスシグマの進め方”とマッピングして、チェンマネとして追加する必要があるタスクをもう少し具体的に書いてみたいと思います。
1. チェンジマネジメント(チェンマネ)として追加する必要があるタスク
ということで、まずはマッピングをしてみます。
こんな感じで、チェンマネのアプローチに含まれている内容の多くが、実は“一般的な問題解決(as-is ~ to-be)およびリーンシックスシグマの進め方”にも含まれています。ではチェンマネとして追加する必要があるタスクは何かと言うと、一言で言うと“現場・社員へのコミュニケーション”なのですね。
問題解決をすると、業務のやり方を変えることになる場合が多いと思いますが、現場・社員は大抵業務のやり方を変えたくありません(笑)。新しいやり方の方が良いんだと聞かされても、“変えるのは諸々面倒くさい”、“変えることで問題が起こったらどうするんだ”、“問題に対処するのは結局現場の自分達なんだ!”等といった理由が背景にあります。
なのでここは丁寧なコミュニケーションを継続してやる必要があり、自社内で“魂を込めて”やることが大事です。前回、コンサル会社からするとチェンマネは“何となくメインでない、日陰な存在ではないでしょうか?(笑)”と書きましたが、第3者であるコンサル会社の手の届かない(部分が多い)領域だからなのですね。
2. チェンマネとしてのコミュニケーションの具体的な進め方
それではここから、チェンマネとしてやるべきコミュニケーションを、a) コンテンツ、b) 伝え方、c) 継続の仕方に分けて書いてみたいと思います。
a) コミュニケーションのコンテンツ(中身)
現場・社員に伝えるべき“コンテンツ(中身)”は、コッターの変革8段階プロセスで言う“ビジョン”です。
コッターによるとビジョンとは“将来のあるべき姿を示すもので、なぜ人材がそのような将来を築くことに努力すべきなのかを明確に、あるいは暗示的に説明したもの”ということです。何となくモヤっとした感じですが、ビジョンとはそういうものです(笑)。とは言え、出来る限り社員に“響く”内容にしなければなりません。
わかりやすい例を挙げると、今(2022年8月末)現在進行中のウクライナでの戦争があります。戦争には当然大義名分が必要ですが、この大義名分が“ビジョン”です。ウクライナ側のビジョンは明確で“ロシアの軍事進攻には正当性がなく、ウクライナは主権を守る必要がある”ということですね。今回の戦争は情報戦が活発ですが(今回に限った話ではないですが)、ウクライナ側からのあらゆるコミュニケーションは、このビジョンに基づいていると言えます。
ウクライナくらい“今そこにある危機”が明確だと、ビジョンは極めてクリアになりますが、問題解決者の皆さまが関わる問題は、そこまで危機感が明確ではない場合が多いと思います。そこでどうするか?ここでも“現場のメンバーを巻き込む”ことをお勧めします。どう伝えると伝わるのか、現場のメンバーにアイディアを出してもらうのですね。
具体的なやり方は、以前に書いたワークショップ形式で、ビジョン作りセッションをします。セッションの内容は、これも以前に書きましたファシリテーションテクニックの中の“二面法”が使えます。 ホワイトボードを横に区切り、(今回の問題解決策を実施することで)“1年後に増えていたらいいもの”、“1年後に減っていたらいいもの”と書きます。そして“サイレントブレーンストーミングを使って、各々アイディアを書き出してもらいます。
これは二面法の中でも“モア or レス”と言われる手法になります(詳細はこちらをどうぞ)。で、出てきたアイディアをとりまとめて1つの文章にします。“この問題解決策を実施することで、私たちは1年後、〇〇を達成し、△△という姿を目指します、云々”といった感じです。それがビジョンになる訳です。現場のメンバーの想い・言葉を取り入れることになるので、“しみじみ感”が出てくると思います。
ここで文章の作り方について、参考になるビデオをご紹介します。リーダーシップ理論で知られるサイモン・シネック氏のTED Talkです(約18分)。ちょっと長いですが、とても面白いので、お時間ある方はぜひ見てみてください(お急ぎの方は下へ読み進んでください)。英語ですが、TED Talkのサイトは同時翻訳が見れるので便利です。
ビデオのポイントは、”ゴールデンサークル”という理論で、人は”What”⇒”How”を先に話がちですが、まず”Why”を話すべきということです。ビデオ中で、こんな例が挙げられています。
例①パソコン:【ありがちな説明】我々のコンピュータは素晴らしく、美しいデザインで簡単に使え ユーザフレンドリーです。ひとついかがですか? ⇒ 【アップルならこう言う】我々のすることはすべて世界を変えるという信念で行っており、違う考え方に価値があると信じています。私たちが世界を変える手段は、美しくデザインされ、簡単に使えて親しみやすい製品です。こうして素晴らしいコンピュータができあがりました。ひとついかがですか?
例②Tivo(家庭用デジタルビデオレコーダー):【Tivoがした説明】生放送を一時停止したりCMをスキップしたり、巻き戻して見たりできるテレビです。どんな番組が好きかを 頼まなくとも記憶してくれます。 ⇒ 【サイモンの修正案】自分の生活のあらゆる側面を自分でコントロールしたいという方にはぴったりの製品が、ここにあります。生放送を一時停止したり、CM をスキップしたり、好みの番組を記憶します。 等々
いかがでしょうか?確かに、同じことを言うのでも、少し順番を変えるだけで、だいぶ”響く”ようになりますね。
b) コンテンツの伝え方
コンテンツができたら、それを現場・社員に伝えなければなりません。伝え方はメール、イントラ、社内報、会社によっては“タウンホール・ミーティング”等もあるかもしれません。
タウンホール・ミーティングとは、外資系の会社では多くやっていますが、トップマネジメントが各現場を訪問して、現場からの声を直接聞き、それに答える場です。そんな場があれば、そこでトップから直接語りかけるのがいいですね。なければ、このような場を作ることをおススメします。
c) コミュニケーションの継続の仕方
社内に定着させていくためには、上記の様々なチャネルでのコミュニケーションを継続して行うことが大事です。それと併せて、社員の“レコグニション”を継続的に行うこともおススメです。
レコグニションとは日本人には聞きなれない言葉ですが、これも外資系の会社では多く行われています。文字通りの意味では、“(社員を)認める・認知する”ということですが、要は社員を褒賞するのですね。
例えば、一定期間、当該問題解決策を実施し続けて、一定の成果を出した社員がいれば、その社員に盾や賞状を授与したり、場合によっては金銭的ベネフィット(例:クオカード等)をあげたりして、その授与の場面を社内報に載せたり、もしくは上記のタウンホール・ミーティングの場で、トップから直接授与してもらったりするのです。そうすると、“自分も授与されたい”となって、社員がモチベートされる訳です。
日本人は控えめなので、こういうことをされても“いや、これは皆でやったことですから~”、等とそんなに嬉しくなさそうにする人が多いと思いますが、内心嬉しくないことはないと思います!
3. 短期的成果~さらなる変革 – “スモールスタート”のススメ
さて最後に、コッターの変革8段階プロセスの中の、“短期的成果を実現する”~“成果を生かして、さらなる変革を推進する”について触れておきたいと思います。
変革を現場・社員に受け入れてもらうために、コミュニケーションと併せて効果的なのが、“実際にやって成果を見せる”ことです。そのために、いきなり全社展開するのではなくて、対象領域を小さく区切って、“スモールスタート”してみることをお勧めします。例えば、営業のプロセス改善であれば、いきなり全営業担当者に展開するのではなく、特定のエリアだけで実施する、もしくは特定のセグメントの顧客に対してだけ実施する、等の区切り方で小さく始めて、早い段階で成果を出すようにします。
その成果を社内で大々的にコミュニケーションして、社員の受容度を高めた上で、全社展開につなげていきます。
最近は、このスモール・スタートのことを“POC(ポック)”と言ったりします。Proof Of Conceptの略です。で、このPOCはおススメの進め方ではあるのですが、これも最近よく聞くのが、“とりあえずPOCやろう”という掛け声のもとに始めるのですが、そこから先に進まない、というケースです。
POCをやっていると、何となく“やっている感”を出せるのですが、そこから先に進めるとなると社内での投資申請等が面倒くさくなるので、有耶無耶に終わらせるというパターンですね。これを避けるために、POCの”Exit Criteria“を明確に決めておくことが大事です。”どれだけの期間中に、どれだけの成果が出たら先に進める“ということまで事前に社内で合意をとっておくことです。そうすれば、有耶無耶に終わることは減らせるはずです。
今回はこのくらいにさせていただき、また次回以降、続けていきたいと思います。 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。